自己血輸血とは


 必要とされる輸血を自己の血液で賄うため、同種血輸血に伴う感染症・輸血後GVHD・同種免疫に伴うほとんどの副作用を回避できる。現在、下記の3方法がある。
1. 術前貯血式自己血輸血
2. 術中回収式自己血輸血
3. 血液希釈式自己血輸血

手術症例によっては、上記の3方法を適時併用することもある。

(1) 術前貯血式自己血輸血

 術前貯血方式は、もっとも一般的な方法である。
 術前に予測される必要な輸血量に見合う貯血をするのが原則である。
 なお貯血方法には下記の3方法がある。
 @凍結保存法(当大学輸血部では行っていない)

  採血した血液を赤血球と血漿に分離し、両者とも凍結保存する方法で歴史は古い。
●利点
貯血期間が長く、したがって貯血量を増やすことが可能である。
●欠点
1. 特別の設備が必要とされ、手間と費用がかかる。
2. 解凍後の赤血球の回収率が若干低下する。
●適応
稀れな血液型、不規則抗体があって、輸血用の血液製剤の確保が困難な症例で、かつ 1200ml 以上の貯血が必要とされる場合。

 A液状保存法(全血)
  採血した血液をそのまま保存血として低温(4〜6℃)保存する方法で、一般的である。
●利点
 特別の設備、手技が不要で、どの病院でも施行することができる。
●欠点
1. 貯血期間が採血後21日までと短く、貯血量に限界がある、

2. 貯血量を多くしたい場合には、エリスロポエチンの併用、または採血方法にカエル跳び法、スイッチバック法を行う。
●適応
 貯血量が 800ml 以下の場合、すなわち一般外科(消化器外科等)に適応がある。

 B液状保存法(MAP赤血球)
採血した血液を赤血球と血漿に分離し、赤血球はRC-MAP(日赤)として低温保存する。(血漿は新鮮凍結血漿(FFP)として凍結保存する。)
●利点
1. 液状保存法に比べ、赤血球、血漿の品質および回収率が高い。

2. 赤血球保存期間が採血後42日であり通常の成人であれば、エリスロポエチンを併用することにより、2,000ml の貯血も可能である。
(注)現在MAP赤血球製剤の保存期間を日本赤十字血液センターでは21日間としている。しかし、主治医の責任において42日間まで延長することは可能である。
●適応
貯血量が 800ml 以上で、かつ凝固因子の補充が必要とされる症例、とくにヘパリンを使用する心臓外科手術には最適である。

 (2) 術中回収式自己血輸血

手術中に出血した血液を吸引回収して、患者に輸血する方法で、次の2方法がある。
@非洗浄回収式

 溶血、凝血塊、組織片の混入感染の危険性がある。(最近は施行されていない。)
A赤血球洗浄回収式

 手術中に出血した血液を回収し、洗浄赤血球(WRC)として使用する。
●使用する装置には現在   
 Cell Saver-4(Haemoneitcs社商品名)
 AT-1000(Electoromedicus社商品名)その他がある。
●適応
 短時間で 500ml 以上の出血が予想される症例(例:大動脈疾患、脊椎疾患)。
●欠点
 1. 特殊な装置が必要、コストが高い。
 2. 感染の危険性が高い。
 3. 悪性腫瘍細胞播種のリスクが否定できない。
 4. 出血した血液を回収しWRCにするまで約10分要する。(装置により差がある。)

 (3) 血液希釈式自己血輸血

@適応となる症例
 外科手術の9割以上が適応となりうる。

 禁忌→心筋障害、心臓弁機能不全
 止血機能とくに血小板に異常がある場合。
 ヘマトクリット(Ht)値が20%以下。
A採血量
 採血後ヘマトクリット(Ht)値が16%まで可能。
 採血後ヘマトクリット(Ht)値:20%→600ml 採血可能。
               22%→1,200ml 採血可能。
 600ml の自己血で出血量 1,400ml に対応可能。
B実際の方法
 手術前 →鉄剤、エリスロポエチンの投与
 麻酔導入後 →採血開始10分前から乳酸リンゲル液(10ml/kg)を輸注。
 自己血採血開始 →予定量の採血→採血量に見合う乳酸リンゲル液を輸注。
 採血終了  (採血は浅在頚静脈から行う。)
 手術開始 →低ヘマトクリット(Ht)値(血液希釈状態)で手術施行。
 手術終了
 利尿剤の投与 →尿量、血圧、静脈圧をみながら自己血を輸血。


自己血輸血の利点と適応


 (1)利点

@患者の立場から
 1. HBV, HCV, HIV, HTLV-T, CMV, 梅毒などの輸血感染症の予防。
 2. 血液各成分による同種免疫反応がない。

 3. 同種血による免疫抑制作用を防ぐ。
 4. GVHDの防止。
 5.反復採血により、赤血球の産生が刺激される。
 6. 手術や輸血に対して安心感が得られる。
A社会的予防医学の立場から
 感染症や同種免疫反応を予防することにより、人的、経済的、社会的損失を防ぐ。
B輸血業務の立場から
 1. 輸血検査の簡略化で手間と費用が節減される。
 2. 不規則抗体など適合血が容易に得られない時、ただちに使用が可能。
 3. 遠隔地における手術の際の輸血に対応可能。


 (2) 適応

@術前状態が良好で、緊急手術を要しない症例。
A術中出血量が予測でき、輸血を必要とする症例。
Bまれな血液型やすでに免疫抗体を有する症例。
C輸血副作用の既往症がある症例。
D大量出血が予測される症例(術中回収式)。
E宗教的信条から同種血輸血を拒否する症例(術中回収式)。
F僻地で血液センターからの血液製剤供給が困難な場合。


 (3) 小児外科における自己血輸血

@最も望まれる対象であるが、採血が困難である。
 1. 採血時おとなしくしていない。(とくに低年齢者)
 2. 細血管である →特製の採血針と採血バッグが必要。
 3. 採血量に限界がある → カエル跳び法などの併用が必要。
A対象となる症例(術前貯血)
 1. 年齢:4歳以下は採血が困難。
 2. 体重:10kg 以上が望ましい。
 3. ヘモグロビン(Hb)値:11g/dl 以上
 4. 貯血期間:約21〜30日
 5. 貯血量:400〜1000ml(1回採血量10ml/kg)
 6. 主な対象症例:心臓外科70%
          整形外科20%
         その他 10%
B留意点
 1. 本人の協力と両親のインフォームドコンセントを得る。
 2. 鉄剤の投与(エリスロポエチンは不要)。
 3. 人為的な事故防止に十分注意する。
C小児用自己血輸血用バッグ
 採血量に合わせて、CPD液量が調整できる小児用自己血輸血用バッグ(BB-SC200J81)がある。


輸血部設置の機器・用具


血液自動分離装置テルフレックスAC-212
<装置の概要>
 採血後遠心分離した血液バッグをセットし、界面センサーにより自動的に血漿、バフィーコートを分離する
<主な用途>
 MAP赤血球作成、血漿分離(新鮮凍結血漿

大容量冷却遠心機クボタ9920
<装置の概要>
 血液バッグを遠心する
<主な用途>
 

SEBRA 2380ミニチューブシーラー
<装置の概要>
 高周波誘電加熱方式によって血液バッグ等のチューブをシールする
<主な用途>
 

チューブシーラー(HAEMONITICS SCD 312)
<装置の概要>
 
<主な用途>
 



自己血・院内採取マニュアル
(福井大学輸血部 2005.12.1)


  1. 採血場所
    明るく、静かで、採血ベッド周囲に十分に操作スペースのある場所を確保する。

  2. 採血バッグ
    自己血用バッグを用いる。当院では目的により以下の製品の中から選択する。
    200m/400ml、CPD-A全血用/MAP用、針なし(コネクター付)
      わからないことがあれば輸血部に問い合わせて下さい。
     <テルモ血液バッグCPD Code No.BB-SC200J8, BBSC400J8>
     <MAP4連バッグ Code No.BB-QM200J8, BB-QM400J8>
    *MAP用4連バッグを使用するときは事前に輸血部に連絡して下さい。
         →採血後の赤血球・血漿の分離は輸血部職員が行います。

  3. 必要な器具・消毒用薬剤類(青文字はオプション)
    採血ベッド(昇降、角度可変のもの)
    チューブシーラー、コッヘルローラーペンチヘモクイック(重量減圧採血装置)
    点滴台、駆血帯、翼状針(18G又は19G)、絆創膏、輸液セット
    血圧計、聴診器、台秤(1kg、自然落下採血の場合には必需品)
    アルコール綿、イソジン、ハイポアルコール、滅菌綿棒、カット綿など
    生理食塩液、注射用鉄剤(内服鉄剤が使用できない時)
      100mlの採血で約50mgの鉄が失われる、必要なら補充をする
      鉄剤は電解質液ではなくブドウ糖液等で希釈して注射ないし点滴する

  4. 採血前検査
    血圧、体重、体温
    血液型(ABO式、Rh(D)式)、不規則性抗体スクリーニング
    CBC、血清鉄、(必要ならフェリチンも検査する)
    血清総蛋白、アルブミン、肝機能、腎機能などの生化学検査
    感染症(HBs-Ag、HBs-Ab、HCV-Ab、STS、HIV-Ab、HTLV-1-Ab)

  5. 確認事項
    検査データ、体格、血圧が採血にさし支えないか?
    発熱・下痢等、採血前数日間の体調に異常はなかったか?
    説明を行い同意をとっているか?(輸血同意書をとること)


<採血手順>日本赤十字血液センター業務基準に準ずる


  1. 採血ベッド上に横たわらせ、ベルトやネクタイは緩めてリラックスした姿勢をとらせる。
  2. 駆血帯を巻き両腕を調べて、最も状態の良い太い血管を選ぶ(通常は正中肘静脈)。
    (駆血帯の圧は40〜60mmHgが適当)
  3. 採血血管の太さに応じて翼状針を選択する。
  4. 針キャップをはずす時、またはアダプター部を開口する時には、必ずクレンメを閉じる
    (クランプしないとエアが採血ルートやバッグ内に流入する)
  5. 採血部位を中心にアルコールで消毒をする。
  6. イソジン消毒(乾燥するまで3分間待つ)。ハイポアルコールで脱色、消毒する。
    (消毒に関しては消毒用アルコール、消毒用イソプロパノール、ポビドンヨードなどでも良い)
  7. 穿刺部には絶対手を触れないようにして穿刺する。
    (血管を触知する必要がある時は採血者の指も消毒して行う)
  8. 血管内に刺入したことを確認したら、クレンメを開け採血を開始する。
  9. 採血中患者に痛みや気分不快がないかどうか、採血速度が維持されているか、注意する。
  10. 採血中、血液と抗凝固剤とが混和するようにバッグを一定間隔で振盪する。
  11. 重力落差採血では空バッグ重量に採血重量(400mlでは400g)を加算した分採血する。
    (ヘモクイックを使用すれば自動的に重量が測定され目的量に達すると停止する)
  12. 採血が終了したらクレンメを閉じ、駆血帯をただちに緩める。
  13. メスコネクターかバッグ寄りのところで少しずつずらして3度シールし、その中央でチューブを切り離す。
  14. メスコネクターのキャップを手で切断し、その部分に点滴コネクターを接続する。

【採血済み血液バッグの処理】
 *点滴の時は点滴中に、鉄剤注射の時は注射後速やかに血液バッグを以下のように処理する。
1. ローラーペンチで採血チューブ内の血液をすべてバッグまで追い込む。
2. ローラーペンチを緩めずに、バッグから20〜30cmのところをシールする。
3. ローラーペンチを緩めて血液をチューブに導入し、バッグに近い部分をシールする。
4. チューブを3〜4等分するようにシールする(パイロットチューブとなる)。
5. 速やかに輸血部に血液を運び保管依頼をする。
 **MAP4連バッグを使用した場合はそのまま輸血部に持参して分離の依頼をすること。

【自己血の時の留意事項】
バッグに自己血用ラベル(<患者氏名>・<ID>・<血液型>・<採血年月日>・<使用期限日>・<使用予定日>が印刷されたもの)が貼ってあり、<直筆の患者名>が記入されているか、採取血液量が記載されているか確認する。
採血したバッグと記載内容を患者に見せて本人のものであることを確認してもらうこと。